大文字山  昭和62(1987)年12月13日ㅤ

銀閣寺道バス停を降りたのがジャスト10時。見上げれば空は快晴。お山は紅葉また黄葉で鮮やかなことこの上なし。
 橋のたもとで例の身繕いして出発。近所の菓子屋でスポーツドリンクのビン入りを150円で買い、リュックにつめこんでこれで完成。

銀閣はホン最近拝観停止を解いたため、観光客が三々五々。喫茶店でこんな時間に汁粉を食べている酔狂なアベックもいる。「すべては何ごともなし」の感じに戻った銀閣寺界隈。

銀閣寺門前を左折するとそこが大文字寺の別名のある浄土院。20mほどでまたぶつかって右折するが、そこが八神社。古さびたたたずまいにフト寄ってみたい気が起きるが、あとの予定を考えて通過。
 

行者の森碑を過ぎて山道にかかる。

ヤングの10人位のグループにカメラマンを頼まれる。「ハイ、バター」で笑わせて登りにかかる。馬に乗った人がいる。これで大文字に登ったのだろうか、マサカ、と思いつつ歩をすすめる。二、三ヵ所水場がある。これだけ晴天が続いているのに水はたっぷりしている。ビンを持って水を汲みに来ている人もいる。

道は落ち葉が散り敷いて気持がいい。針葉樹の森ではこうはいかない。木の間から北に比叡山が見える。とにかく道は明るい。

10時半、千人塚の碑から少し上がったところで150段の階段になる。山口ビルの階段をふだん登っておくべきだったかなどと反省したりする。それが終わってまた段差は低いが、そこそこの階段にかかる。もうイヤ、と思った瞬間眼前がパッと開ける。

大文字の火床の一番上に出たのである。ときは10時40分。思わず展開する京都の市街パノラマに息を飲む。紅葉の吉田山と京大キャンパス、御所の緑と同志社キャンパス。遠く秀麗な愛宕山。右は延々と波打つように連なる北山連山。

記念写真を撮ろうと、足もとにある火床にピントを合わせ、そばにいた女の子に「向こうの愛宕山を入れて撮って下さい」とシャッターを頼む。終わってから「あれが愛宕山ですか?」の質問に応えて暫く話す。府立医大病院付属看護学校の生徒で、寮に入っていること。出身は寝屋川。ワンゲルに入っていて、北山をだいぶん歩いたことなど。

一休みののち出発する。すぐ潅木の林の小径が続き、あの風景が見えなくなる。小さなアップダウンがひとしきり続いて11時5分大文字山の点標に着く。
 BS京都34団のスカウトたちと一休み。ハットの新しいのがいたので聞くと小五だという。月の輪かと聞いたらもう終わったと。今日は覚えたけどおきてはまだやネン。カブのやくそくは少なかったけど、ボーイのおきては多いモン、なかなか覚えられヘン」。がんばれよと一言残して先発。

ここからは東山縦走。道は錯走していて分からないことおびただしい。まず最初の分岐は急斜面で道は3つに別れる。ここは右の一番大きい尾根道をとる。次は峠。尾根筋を辿っているところへ突如クロスした峠道が現われる。ここはまっすぐ。しばらく行くと30人くらいのおじさんおばさんの団体と行き交い、しばしよける。道はまちがつてないナと安心する。次は三叉路。これは親子4人連れが降りていたので同様に左へ。粘土質の滑りそうな急斜面。立木につかまって慎重に降りる。
 ここからは杉の密生する暗い谷道が延延と続く。もう何の変哲もない単純な道。たまに繁みが切れて空が覗く以外は変化なし。うっとおしい。

ということで、三叉路から半時間みっちり歩いて、12時ジャストに後山階陵のちのやましなのみささぎに到着。ここが日向大神宮への別れ道。左は山科方面、右の道をとる。

しばらく舗装道路が続く。小型トラックが2台向こうから、また後ろから来る。この先は○○造園土木会社の用地。先ほどのトラックが積んできた木の枝を下ろしている。植木や庭石もあるが、要は不要物の処理場なのである。とにかくほこりっぽい。
 100mほど行ったところで右に林道(進入禁止だったが)を見送って山道に入る。入ったところに自転車を止めて何かむさぼり喰っていた妙なおっさんがいた。それをやり過ごして進む。ここからも針葉樹の密生したトンネルのようなところをくぐってゆく。空はいつの間にかどんより曇り、ひょっとしたら・・・という感じ。いいや、降ってもレインスーツを持って来ている。いやいや、今日のズボンは新品だから降られたら困る。・・・とりとめのないことを考えながら進む。
 急な登りの途中、向こうに空が見えたので喜ぶと、その先はまた一層急な下りだ。どんどん下ると「左山科」の分岐。また進む。やがて一層急な登りになり、その次は関西電力の鉄塔(?)。ここから道は山の南裾を巻いて北向きになる。

やがて谷が窮まったところで七叉路(!!)になる。ここは道標が完備し過ぎていて、左斜めに「日向大神宮」とあった。200mくらいで道は急に左へカーブした。

フト左を見ると岩壁に穴が穿ってあるではないか。これこそ戸隠神社。写真を撮って、中に入って手を合わせ、向こうへ出て・・・

・・・向こうへ出て(僅か10mくらいか)また写真をとる。どうやら裏から入って表に出たような工合である。

フト見ると下にお社の屋根が見えるではないか。とうとう日向大神宮に到着したのだ。とき既に12時45分。

京のお伊勢さんというそうだが、さもありなん。実にきれいというか、端整なたたずまいのお社である。平入りの形式。内宮、外宮それぞれにおさい銭を投じて手を合わせる。

境内の紅葉が逆光の中、最高に美しい。同好の士が一人、カメラ片手に歩き回っている。

写真を数枚撮ってから、境内を出外れるところのベンチにリュックを下ろし、まずは腹ごしらえ。昨夜の山菜おこわのお握り2個。これをスポーツドリンクで流し込む。人心地ついたところでアンダーシャツをはじめとし、上半身を着換える。これですっきり。この境内は閑静で、アベックに最適と見た。ここは知らんかったなあ。

(旧九条山浄水場ポンプ室)

(疏水を跨ぐ大神宮橋)

(蹴上船溜り)

蹴上に出て電車を待つが、来ないので歩き出す。と、途端に電車が行き過ぎる。しまったと思う。京阪バスが来る。そこがバス停やと追っかけるとノンストップで行き過ぎる。もう間の悪いことで、諦めて京阪三条まで歩くことにする。
 京阪三条が1時35分じゃ1時半のDMCに間に合うわけがなかったのだ。